匂い

最近読了した吉村昭著『彰義隊』のなかにこんな文章がありました。

「輪王寺宮(主人公)は、寛永寺のお寺で蝉の声につつまれながら読経をしていたことを思い起した。蝉が鳴きしきっていたが、それが静寂を一層深め、樹皮の匂い、敷かれたこまかい石の匂いも感じられるような思いであった。」

ある種の音は、かえって周囲の静けさを強調してくれるんだと教えられた次第です。そういえば、芭蕉の「古池や~」「静かさや~」も同じですよね。当然古池に飛び込んだカエルは一匹でないといけませんが、英訳では “flogs” と複数になっているのもあります。それにしても「敷かれたこまかい石の匂い」という表現は凄いですね。

香りといえば、あるフランス人シェフが「味覚は日本人の方が優れているが、嗅覚は我々フランス人の方が優れている」と言っていました。たしかに、以前友人二人とトリュフをふんだんに使ったコース料理を食べましたが、三人ともトリュフの香りがわからず、高価な代金を愚痴り合った記憶があります。

今回ちょっと長くなりましたが、最後に世界的高級ホテルチェーン「シャングリラ」の香りについて触れます。同チェーンはマレーシアの砂糖王が創業しましたが、ホテル名の中国語が「香格里拉」と「香」が入っていることから全世界共通でロビーに同じ香り(シカゴの調香会社が開発)を流しています。まだ嗅覚が敏感な早朝に行かれることをすすめます。ただ「香格里拉」の「拉」という字から北朝鮮の「拉致」が想起され、ちょっと気分が落ち込んでしまいました。)

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