堺屋太一さんの慧眼『団塊の後 三度目の日本』(その一)

今、日本は「少子高齢化」という深刻な問題を抱えています。このまま人口減少が進めば、どんどん空き家が増える。地方ではすでにそうした現象が起こっています。そして、これから先は東京も例外ではなくなるでしょう。「オリンピック」というある種の成長促進剤が切れてしまえば、東京とて同じ道を辿らざるを得ないでしょう。

そもそも、人口減少を招いた根源は、ずばり、官僚主導体制です。戦後、佐藤栄作内閣ぐらいまでは日本は政治主導体制にあり、ゆえに沖縄返還のような大胆なことが実現していました。しかし、その後、田中角栄首相が石油ショックで人気失墜してからは、世の中が官僚主導で動いている。この官僚主導によって何が起こったか。第一に「東京一極集中」。第二に「流通の無言化」。つまり、おしゃべりをしながら買い物をする小売店ではなく、黙って買い物するコンビニや自動販売機を普及させていったのです。第三に「小住宅・持ち家主義」。中国では住宅を買える人は大きな家を買う、買えない人は買えないといったように厳然たる格差があります。ところが、日本は住宅ローンによってみんなが買えるような小さい家を作ったのです。 そして、第四に「正社員至上主義」。親類とも近所とも付き合わず、勤め先にだけ忠実なサラリーマンの群を作りました。この結果、日本人のライフスタイルはすっかり“規格化”されてしまいました。大学まで一直線に進学することがよしとされ、大学を卒業したら、すぐ就職して正社員になるのが最良という風潮です。そして、働き始めたらまずは蓄財し、ある程度、貯まってから結婚、出産。きちんと順を踏むのです。でも、この筋書きではどうしたって女性の初産の年齢が上がってしまう。そうなると、生まれる子供の数が限られる。これが人口減少に繋がっているんです。かといって、この官僚主導体制によって設計されたライフスタイルから人はそう簡単には抜け出せません。なにしろ、それに則って人生を送った方が、今の世の中、福祉も税制も一番有利になるように仕組まれているのですから。そうやって日本人を規格化することが、戦後の日本経済を成長させるためには必要だった、特に高度成長時代はそうでした。しかし、もういい加減、日本は根本的な価値観を改める時期に来ていますよ。

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