今回はちょっと長くなりますので、もしこのテーマにご興味があればぜひお読みください。
東京大学名誉教授西嶋貞生博士(1922-1998)は、世界史の中で文明や国家の「中心」が以下のように時計回りに移動するという考え方を提唱され、松下幸之助をはじめ多くの人々がこれを援用しています。
古代中国(黄河流域)⇒ 南アジア(インド亜大陸)⇒ 中東(西アジア)⇒ ヨーロッパ⇒ アメリカ合衆国
さてここ最近まで世界のリーダーとしてふるまってきたアメリカ合衆国の凋落ぶり(多分トランプ次期大統領がそれを加速するであろう)を見ると、次はどこかということになります。「次は日本!」と言いたくなりますが・・・。衆目の一致するところ中国ですね。やはり時計が一回りしてスタート地点に戻ってきたと考えれば、ここでも西嶋博士の「時計回り論」は生きています。
習近平主席も、ようやく経めぐってきた覇権国家のポジションを確固たるものにすべく「中華民族の偉大な復興」をスローガンにかかげ、諸外国との連携強化に注力しています。しかしあの国の一党独裁体制が深刻な不動産不況や地方政府の財政破綻など現在直面している多くの課題を克服できるか疑問です。我が国のメディアの論調には、それを喜んでいるかのようなところも見られます。しかしリーマンショックからの脱却に中国が果たした役割は小さくありませんでした。もし近い将来に中国が仰向けにコケたときには、あの時の中国のような腕力を発揮してくれる国はいそうもなく、その余波は世界中を覆いつくしてしまうのではないかと心配です。たしかに最近の中国のやり方は好感が持てませんが、仰向けにコケることだけはないように注意深く見守っていかなければならないと考えています。
閑話休題、再び「時計回り」理論を考えると、中国の次はインドということになります。
西洋諸国は、インドが中国やロシアと違い「民主主義の国」であるということ、そして拡大志向の中国への一種の防波堤の役割が期待できるとして、インドに親近感を持っているようです。しかし最近のインドは、一見すると西側諸国の期待を裏切っているように見えます。たとえば、
(1)2020年に国境地帯で衝突以来関係悪化が伝えられていた中国と、最近、関係を仕切り直すことで合意した。
(2)規制対象になっている重要技術のロシアへの供給国として2位に浮上してきている。
(3)ウクライナや中東の紛争には距離を置き、自国の利益を最優先する外交政策をとり続けている。
(4)宗教的緊張の高まりから、国内の治安維持のために厳しい姿勢をとるようになっている。
なぜなのか? ここで私たちは以下のことを理解しておくべきです。
(1) インド人にとって英国人、つまり西洋人は2世紀にわたって自分たちを力で支配し、搾取した加害者そのものである。
(2) アメリカはアフガニスタンの安定のためにパキスタンへの支援を増やしている。
(3) 外貨が稼げず苦しかった当時、物々交換による貿易に応じ、軍備も支援してくれたのが旧ソ連であった。今でも多くのインド人にとってロシアは恩人である。
また日本経済新聞編集委員の小柳建彦氏は、「インドと西洋、異なる世界観」というタイトルのコラムで次のように総括しています。
「今さら西洋人が人権や国家主権や気候変動で高邁な規範を唱えても、「どの口が言うか」とインド人がしらけるのも無理ない。西洋と世界観の共有など、はなから期待すべくもない」
であるならば、我が国はインドとどう向き合って行くべきなのか? 生成AIチャットGPTに「インド人は日本にどんなイメージを持っているか」と尋ねたところ、以下の回答を得ました。
【インド人が日本に対して抱いているイメージは、全般的に好意的で、日本文化、技術、ライフスタイルへの関心が高いとされていまる。具体的には以下のような点が挙げられる。
1. 文化的な魅力:
日本の伝統文化や食文化、アニメなどのポップカルチャーへの関心が高く、日本を「ユニークで魅力的な国」として見ており、富裕層を中心に日本への観光意欲は高まってきている。
2. 技術と先進性:
日本企業の高い技術力や製品の質は、特に工科系学生やIT人材から高く評価されている。
一方、日本で働こうとするインド人学生は、日本企業の評価方法や職場文化に課題を感じている。とくに曖昧なフィードバックや、個人の能力を十分活かせない慣習が問題視されることがある。
日本は、こうしたポジティブなイメージを維持しながら、働く環境や情報の透明性を改善することで、インドからの更なる信頼と交流の強化が期待されている】
インドは冷戦時代にも非同盟の立場をとっていました。そろそろ日本も落ち目のアメリカとの関係を冷静に分析し、将来目指すべき国際的な立ち位置を確立しておくべきだと考えます。その覚悟が無ければ、中国やロシアのしたたかな外交に押しのけられてしまい、インドとの友好関係・信頼関係を深めていくことは難しいのではないかと考えます。
注記:本稿は英王立国際問題研究所シニアフェローのチェティジ・バジパイによるNIKKEI Asia紙寄稿文を参考にしています。
蛇足ながら、私はシンガポール駐在時代、インド人の弁護士やビジネスマンとのやり取りに苦戦を強いられました。なにしろ最初から自分の主張を喋りまくり、喋り倒してきます。彼らと付き合うためには、こちらも相当の体力と語学力が必要です。