アメリカ 今そこにある危機

4年前の1月6日、大統領選挙でトランプが勝利したと決定するようにと群衆が国会議事堂前に集結しました。群衆は議事堂前に絞首台を立て、もしそうでない決議がなされたら議長のペンス副大統領を吊るせと叫んでいました。まるで映画の一シーンですね。

戦後、アメリカはキューバ危機、ベトナム参戦、ITバブル崩壊、同時多発テロ、サブプライムローン問題などを引き起こし、その都度、世界を震撼させてきました。しかしそれでも国家としては資源に恵まれ、民主主義が定着しているということで、中国の驚異的経済発展があっても、依然として世界のリーダー国家であるとひろく認識されてきてました。

かくいう私も、子供のころにテレビホームドラマ「パパは何でも知っている」「名犬ラッシー」などで「理想の国アメリカ」のイメージを徹底的に刷り込まれており、正直、いまでもまだその記憶ははっきりと残っています。

しかし、あの日2021年1月6日、私はアメリカ社会の衝撃的な「分裂」を目のあたりにし、目からウロコがばらばらとはげ落ちてしまいました。その目から見ると、ここ1,2週間のトランプ再選後のドタバタに目を奪われるのではなく、あの日に全く新しいアメリカが生まれた(トランプ2.0はそのシンボルでしかない)と考え、今後シン・アメリカどう付き合っていくかを根本的に考え直すべきだと思います。

そこで読み始めたのが『暴力とポピュリズムのアメリカ史』と『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』です。そのなかで、二つだけ興味深い文章を紹介します。

(1)「アメリカは、一方では最新の科学技術の国であり、ノーベル賞受賞者を最も多く輩出している国であり、数々の名門大学を擁する国である。ところが他方では、キリスト教が異様なほど盛んで、日曜日には人びとが教会に通い、海が分かれて道ができたとか、死人が復活したとかいう話をまじめに聞いて神を礼拝している。キリスト教を信じる人は他の国にもたくさんいるが、進化論を真っ向から否定するような議論が責任ある地位の人びとの口から平然と語られるのは、アメリカだけである」
出典:森本あんり著『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体」

(2)「アメリカ文化の基層に流れる暴力の衝撃について、歴史家アラン・テーラーは、アメリカ独立戦争でイギリスから独立を勝ち取った植民地人(アメリカ人)が、共和国家アメリカを建国した後も、独立以前と同じ植民地主義の文化を持ち続けたことを強調している。開拓者たちが定住地を築くとき、先住民にたいして如何に暴力的で差別的であったかを、彼は赤裸々に描いている」
出典:中野典史著『暴力とポピュリズムのアメリカ史』

イギリスから宗教弾圧を逃れて新天地を目指した清教徒(ピューリタン)ですが、「右のほほを打たれたら左のほほを差し出しなさい」というキリストの言葉は、あくまで仲間内でのことで、異邦人に対しては別ですね。しかしこのアメリカの分裂は、同じアメリカ人のなかでの分裂です。簡単にバンドエイドで抑えるってことは難しいでしょうね。それが出来るのは、アメリカがにっちもさっちもいかなくなった危機的状況に陥った時かもしれません。中国には「窮すれば変ず 変ずれば自ずと通ず」という諺があります。しかし、その時には世界がどうなっているか? かなりヤバいのではと心配です。

 

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