夏目漱石の妻鏡子さんは、「ソクラテスの妻」とならぶ悪妻の典型という評価もありますね。しかし、ロンドン留学中に漱石が出していた手紙には切々とした愛情が感じられます。少なくともこの時期までは、仲が良かったのではないでしょうか。ただし、彼女が朝が弱かったのは新婚時代からだったようです。
筆（娘の名）も丈夫に相成候よし、何より結構のことに候。なるべく我儘にならぬやう甘へぬやう、可愛がりてむやみにあまき物などやらぬやう、むやみに座らして足部の発達を妨げぬやうご注意可被成候。これらは一時に害なきやうなれども将来恐るべき弊害を生じ一生の痼疾と相成申候。
産後の経過よろしく丈夫になり候へば入歯をなさい。金がなければ御父さんから借りてもなさい。帰ってから返してあげます。髪などは結はぬ方が毛のため脳のためよろしい。オードキニンといふ水がある。これはふけのたまらない薬だ。やってご覧。はげがとまるかも知れない。
下女暇をとりさぞかし御多忙御気の毒に候。金が足りなくて御不自由これも御察し申す。しかし因果とあきらめて辛抱しなさい。人間は生きて苦しむための動物かもしれ
手紙の趣によれば夜は十二時過、朝は九時十時頃までも寝るよし。夜はともかくも朝は少々早く起きるやうに注意ありたし。九時か十時まで寝る女は妾か、娼妓か、下等社会の女ばかりと思ふ。かつ小児の教育上にもよろしからざる結果ありと思ふ。筆などが成人して嫁に行ってやはり九時十時まで寝るとあっては余は未来の婿に対して甚だ申訳なき心地せらる。つとめて己の弊を除くは人間第一の義務なり。かつ早起は健康上に必要なり。
筆（娘の名）も丈夫に相成候よし、何より結構のことに候。なるべく我儘にならぬやう甘へぬやう、可愛がりてむやみにあまき物などやらぬやう、むやみに座らして足部の発達を妨げぬやうご注意可被成候。これらは一時に害なきやうなれども将来恐るべき弊害を生じ一生の痼疾と相成申候。小児の教育ほど困難な物は無之精々御心配願上候。
産後の経過よろしく丈夫になり候へば入歯をなさい。金がなければ御父さんから借りてもなさい。帰ってから返してあげます。髪などは結はぬ方が毛のため脳のためよろしい。オードキニンといふ水がある。これはふけのたまらない薬だ。やってご覧。はげがとまるかも知れない。
御前は産をしたのか、子供は男か女か、両方とも丈夫なのかどうもさっぱり分からん。遠国にいるとなかなか心配なものだ。自分で書けなければ中根の御父さんか誰かに書いて貰うがよい。新聞も頼んでおいたが一向来ない。これは経済上の都合があるというならよこさんでもよろしい。ただだんまりすてて置くのは宜しくない。注意するが好い。
下女暇をとりさぞかし御多忙御気の毒に候。金が足りなくて御不自由これも御察し申す。しかし因果とあきらめて辛抱しなさい。人間は生きて苦しむための動物かもしれない。
手紙の趣によれば夜は十二時過朝は九時十時頃までも寝るよし。夜はともかくも朝は少々早く起きるやうに注意ありたし。九時か十時まで寝る女は妾か、娼妓か、下等社会の女ばかりと思ふ。かつ小児の教育上にもよろしからざる結果ありと思ふ。筆などが成人して嫁に行ってやはり九時十時まで寝るとあっては余は未来の婿に対して甚だ申訳なき心地せらる。つとめて己の弊を除くは人間第一の義務なり。かつ早起は健康上に必要なり。