山田宗木『人類滅亡小説』(3)

【医療】

 製薬業界を含めた医療業界が最も困ること ― それは国民みんなが健康になることだ。ならばどうするか、病人を作るのだ。例えば、血糖値や血圧だ。健康診断の基準値を少し変えれば要治療料患者数はどうとでもなる。基準値を変えるには医学的、科学的なエビデンスが求められるが、医療や製薬業界、学会が肚を合わせれば、どうとでもなる。

 今、医薬品として販売されている育毛剤は、全く違う病気に使われる薬の治験中に、服用した患者の毛が生えてきたのがきっかけとなった。しかしもしすでに発毛効果がある薬が発売されていたら(あるいは開発のめどが立っていたら)、日の目を見なかったであろう。なぜなら莫大な開発費をかけて発売にこぎつけた既存薬が売れなくなるからだ。製薬業界では、既存薬が他の薬にも効くんじゃないかという研究は禁忌なのだ。仮に医者の誰かが、このクスリはこの病にも効果があると言ったところで、試す気にはならない。そんなことしたら、適用外使用になる。万一問題が起きたら、訴訟になっても不思議でない。

 医者が書いた本も、製薬会社がまとまった部数を買い取れば、増刷もかかる。それが出版社を通じて印税として支払われる。合法的に現金供与が成立する。さらに医者は患者に対して、本まで出せる権威なのだと印象付けられる。一方、出版不況にあえぐ出版社にとっても、製薬会社がまとまって買ってくれる。かくて製薬会社、医師、出版社と、三者の間でウイン・ウイン・ウインの関係が成立する。

 新しい医療技術を確立する、新薬を開発するには莫大な費用が掛かる。製薬会社にとって開発研究費は先行投資だから、認可されたとすればジェネリック薬品が出回る前までに、つまり特許の有効期間の実質10年間で回収して利益に変えなければならない。そのために高額とならざるを得ない。

 難病、不治とされてきた病が新薬で克服できるとなれば、誰だって治療を望むし、高額だから保険は適用できない、患者負担だと言えば、カネのないヤツは死ねと言うのかとバッシングに合う。

 健康年齢を超えて医療費が最も必要となる世代の人口比率が今後ますます増大していく。 かくて人口が減少しても、医療費はますます増大していく。

≫ コラム一覧へ

ご依頼・ご質問などお気軽にお問い合わせください CONTACT