英エコノミスト誌の「民主主義指数」調査2025年版によれば、20年前に比べて権威主義(反民主主義)化が進行した国は45か国、選挙の質が悪化した国は25か国 ― 明らかに民主主義は全世界で危機にさらされているようです。
以下は、横大道聡 慶応義塾大学教授(憲法学)が日経新聞2025年6月12日に寄稿したものの抜粋です。この危機的状況をとてもわかりやすく俯瞰している論評だと思い、そのエッセンスをご紹介します。トランプの言動に紐づけしながら読まれることをお勧めします。
1. 政治の機能不全や汚職、説明責任の欠如により、民主的制度への信頼は世界的に低下している。
2. こうした民主主義の後退は、多くの場合、法の名の下で進行している。
3. 最も大きな要因はポピュリズムの台頭である。ポピュリズムは、国民対エリート層という対立構図の下、「腐敗したエリート層を打倒する」「真の国民の声を反映させる」などと訴えて政治的支持を得ようとする。
4. これは一見、民主主義に沿ったように見えるが、ポピュリズムの指導者たちは、「国民の声」という名のもと、選挙で選ばれた以上何をしてもよいという「多数派による正当性」の論理を駆使する。
5. そして、彼らは法の支配や権力分立という価値、表現の自由、集会の自由などの基本的人権を掘り崩し、民主主義を侵食していく。
6. ポピュリズムを支持する民意の形成と動員に拍車をかけているのが、SNSを中心とした新たな情報環境だ。SNSを通じて拡散される偽情報や誤情報、陰謀論、ヘイトに満ちた表現などは、冷静な公共的熟議を軽視し、専門家の権威を疑いの目で視る風潮を高めている。
7. その結果、政治に対する監視機能は低下し、相反する意見への寛容さも失われ、政治亭、文化的な分断が進行する。
8. なぜ人々はそういった言説や指導者に引き付けられるのか。その根底にあるのが、経済的不平等や社会的格差であろう。
9. グローバル化や技術革新の恩恵は都市部や富裕層にのみ集中し、取り残された地域や労働者層はやり切れない思いを抱える。若年世代の将来への不安、中間層の没落、移民やマイノリティに対する拝外環状などが複雑に絡み合い、単なる経済的格差にとどまらず、文化的・社会的な分断を生む。
10.このような環境下では、理性的な政策論争よりも「敵を見つけて非難する」という政治手法が有効なものとなり、ポピュリストの主張が猛威を振るう。
以上のように、民主主義の後退には複数の要因が絡み合って進行しており、一撃で仕留めるような「銀の弾丸」はありません。筆者が現時点で提示できるのは、課題を洗い出し、課題ごとに現実的かつ具体的な対応策を、憲法との関係を踏まえながら実直に構想し実行していくという、ありきたりの答えだけです。
【最近の与野党競ってのバラマキ合戦などを見ていると、たしかに我が国もおかしくなっているようです。日本の選挙制度は少し変調気味ですが、それでも私たち一人一人が投票を通じて「ありきたり」のことを一歩一歩進めていくしかないですね。手遅れにならないように!】