グルメとしても知られた映画監督故山本嘉次郎は、日本の「三大洋食」として、カレー、コロッケ、そしてトンカツをあげています。以下はトンカツに関して、私が解決した小さな日本・ドイツ国際紛争のエピソードです。もしお時間があればお読みください。
以前、全日空ホテルズは香港シェラトンに和食堂「雲海」を出店し、板長には大阪の老舗料理店からベテラン板前を派遣してもらっていました。
香港シェラトンのドイツ人総支配人は東京出張の折に食べた「カツ丼」にいたく感動し、帰ってくると「雲海」でも出すようにと板長に伝えました。(ドイツ人は、アイスバインや生肉料理メットなど、豚肉が大好きです) それを聞いた板長は、「俺は丼モノのような下作な食い物をつくるために香港くんだりに来たのではない。すぐ帰国する!」と総支配人の目の前で包丁をまな板に突き立てました。
その剣幕に驚いた総支配人はすぐに全日空ホテルズ本社に「料理長が怒り狂っている。すぐに誰かをよこしてくれ」と要請しました。
翌日、オットリ刀でホテルに行くと、板長はカンカン、一方、総支配人も「総支配人であるオレのリクエストをなぜ聞けないのか」とカンカンです。しばらくは途方にくれていましたが、ふと思いついたのが、「雲海」の食器一式を香港に送った時に、お節料理用に重箱を入れていたことでした。そこで二人に「カツ重」を提案しました。すると板長はすんなり納得してくれ、総支配人も「重箱では隅が食べにくい」とブツブツ言いながらも了解してくれました。
よく「窮すれば通ず」と言いますが、正しくは「窮すれば変ず。変ずれば通ず」です。窮余の一策で、カツ丼がカツ重に変じたことで、ドイツ・日本の小さな国際紛争を解決することが出来ました。