<青春という字を書いて横線の多いことのみなぜか気になる>
これは長崎新聞のコラム「水や空」に紹介されていた俵万智さんの一句です。横線から走高跳や障害物競走のバーを想起し、青春には越えなければならないハードルがつきものだと詠んだのではとのコメントがありました。
詩人の研ぎ澄まされた感性に脱帽です。またこの句をとりあげたコラムニストにも座布団一枚!
こんな感性とは無縁の私も、一年ほど前、卒業した大学の同窓会誌「如水会報」に、「横」についてのエッセーを寄稿しています。だいぶはしょったバージョンを以下に引用していますので、もしお時間があればご笑覧願います。座布団はいりませんが、もしご感想をいただければ何よりのお年玉です。
「組織に横串あれば、授業に横道あり」
私は昭和49年に全日空ホテルズに入社以来、3分の2は海外ホテル開発事業を担当し、この間4カ国に10年間駐在した。その後、沖縄、ハウステンボス、東京(品川)で総支配人として勤務した。そのころ私が最も心を砕いたのが、「組織に横串を通す」ことであった。
旅館と異なり、ホテルでは職種ごとに部門、言い換えれば職能集団がある。部門ごとに業務内容もシフトも違い、部門によってはパターナリズムも色濃く見られる。その結果、ホテルのなかに見えない部門の壁が張り巡らされてくる。 お客様に快適にホテルを使っていただくためには、お客様がホテル内のこの壁を意識することなく、自由に行き来できるようにすることが重要である。
ところが、これがなかなか難物である。 悪戦苦闘の末、無理やり壁を壊したり、橋を架けたりするのではなく、全ての部門を横断する一本の思想、つまり総支配人のビジョンという横串を貫き通せばよいのではないかという考え方に到達した。イメージは、肉やネギなど異なった食材が一本の串にささった焼き鳥である。
その後、平成17年に郷里の九州に戻り、長崎国際大学で教鞭をとるようになった。「安徳先生の講義は、いつも話が横道にそれます」、授業評価で学生らもらったコメントである。それを見た瞬間、ふいにホテルマン時代に「横串」で 苦労したことを思い出した。「横道」「横串」、ともに「横」という字が入っている。「横」が入った熟語の多くは、横着、横領、横槍、横車、はては横死など、ろくでもないものが多い。さっそく図書館で白川静編『字統』を引くと、「縦が従順であるのに対し、横は秩序に反することをいう」とある。そうか、私の授業は秩序を乱していたのか? ショックから立ち直るのに3日ほどかかったと記憶している。