島田雅彦著『虚人の星』

中国は公然とアメリカに敵対しようとはしない代わりに、第三国がアメリカに敵対するのを助け、米軍が世界各地に展開せざるを得ない状況を創り出そうとして、アメリカがテロ支援国家として非難する北朝鮮やシリアを支持し、イラク、イランやロシアともしっかり裏で握手している。

中国の海洋戦略の基本は八十年代に鄧小平と「中国空母の父」と呼ばれる劉華清が練り上げた海洋権益の確保であった。そのため中国は第一列島線、第二列島線という防衛ラインを画定した。元々は、アメリカが冷戦時代にソ連や中国を封じ込めるために太平洋上に防衛線を引き、その線の内側に敵国軍が侵入するのを阻止していたのだが、中国はそれを逆手に取り、アメリカや日本を封じ込める戦略に応用したのだ。

日本と違って、中国の場合、経済の成長と軍備の拡張は正比例していた。とりわけ海軍力の増強は著しく、中国初の空母「遼寧」の運用が始まったかと思うと、ロシアから続々と駆逐艦を購入し、それをコピーした国産の駆逐艦や攻撃型潜水艦、ミサイル艇の建造まで進めている。日本は(駐留米軍とあわせれば?)技術とマンパワーにおいてはかろうじて優勢を保っているが、GDP同様、中国に圧倒されるのは時間の問題だ。

現在の議会民主主義では最終的に衆愚政治に陥り、より過激で、自己中心的な主張をする思慮を欠いた人物が権力を握る事態を招く。政治的無関心が進めば進むほど、政治家も劣化していく。もちろん、言論で政権批判を行う手もあるが、ジャーナリズムも権力に操作されている。

チュニジアやエジプト、リビアなどで連鎖的に独裁政権が崩壊する「アラブの春」という現象が起きた。アメリカは反政府軍にテコ入れし、独裁者を追放したのだが、新たに樹立された政府も不安定で、宗派や民族間の対立が生じた。そしてその空隙を衝くようにして特定地域を支配する民兵組織がゲリラ化して仁義なき戦いの泥沼にはまっていった。
その後「ジハード」がエスカレートすると、アメリカは「人殺しのならず者集団」と決めつけ、彼らの支配地域に爆弾の雨を降らせたのだった。

ソ連がアフガン侵攻をした1980年代初頭、アメリカはゲリラたちを支援し、彼らの武器を供与した。その結果ソ連軍は撤退したが、その後彼らはタリバンというイスラム過激派となり、新政府に敵対する勢力に変わった。イラクでもアメリカは同じ過ちを犯した。隣国のイランでホメイニ革命が起きたことを憂慮し、フセイン政権にテコ入れし、イランイラク戦争を仕掛けたが、のちにフセインが専横を振いだすと、大量破壊兵器疑惑をかけ、イラクに侵攻し、フセインを処罰した。その後、アメリカがイラクから撤退すると、新政権に不満を抱く住民たちの支援を受けた過激派が領域支配するようになった。

結果から見れば、アメリカは熱心に自分たちの新たな敵になるテロリスト集団を育成してきたことになる。自分で自分の首を絞めるとはまさにここことだが、そうでもして、武器や兵器ニーズを開拓し続けなければ、巨大な軍産複合体を維持していくことが出来ない。

尖閣列島の領有問題に関して、アメリカは1996年以来、中立の立場を堅持しており、島の防衛は日本の責任と位置付けている。アメリカは同盟国への政治的配慮から、尖閣諸島は日米安保条約の対象でるあるとし、防衛のために米軍を出動させないと明言することは避けているが、米軍が尖閣防衛のために乗り出せば、米中戦争の勃発となり、アメリカの防衛負担はさらに増大し、財政破綻や世界恐慌の引き金になりかねない。したがって、アメリカは国益を損なうことが無いように慎重に行動するだろう。日本の米軍基地や本国の大都市をミサイル攻撃の危機にされしてまで、他国の無人島の防衛に協力するほどアメリカはお人よしではない。それにアメリカ連邦政府の借金の最大の債権者は中国だから、中国は書くなんて使わなくとも、経済的にアメリカを破綻させることが出来る。中国は、尖閣有事の際に米軍の出動を見合わせるようホワイトハウスに働きかけている。

「昔はよかった」と年寄りが言うとき、たいていの場合、自分がないがしろにさえていることをひがんでいるんだ。

米軍基地もミサイルレーダーも、さらには日本の原発も中国のミサイルの標的になっている。命中率が低くても数撃てば、原子炉に当たらなくて関連施設に当たる。冷却水が断たれ、電源が失われれば、メルトダウンだ。イージス艦や地対空誘導ミサイルで追撃できる確率はきわめて低い。アメリカは日本に防衛負担を求めるが、それは自国の防衛負担の軽減と、中国へのけん制のためである。

国家存立の危機には国民一丸になって立ち向かわなければならない。戦争になれば、国家総動員体制が取れる。政府の号令一下、国民を勤労奉仕させたり、財産を供出させたりすることが出来る。現実問題、財政赤字を解消するには国民の貯蓄を当てにするしかない。国家総動員体制をとれば、国民の貯蓄にも手を出しやすくなる。同時にインフレを加速してやれば、赤字は一気に解消できる。戦争は借金さえも帳消しにしてくれるのだ。

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