クリステン・ハディード著『奇跡の会社』から学ぶ社員全員で成長する方法(2)

6人程度のメンバーに集まってもらい、自分が上手く行っていること、上手く行ってないことについて話してもらう。同じ問題に悩んでいる人がいれば、みんなで話し合い、みんなが納得できるような解決策が出たら次の問題に移る。これも効果があった。

組織マネジメントに詳しいパトリック・レンシオー二は著書『なぜCEOの転職先が小さなレストランだったのか』のなかで、働く人がみじめになる仕事のリスク(要因)を三つあげている。
*無評価(自分のパフォーマンスを具体的な形で直接評価する方法がない)
*匿名性(自分の貢献がリーダーに認められている、自分がリーダーに理解されている、と感じる機会がない)
*無関係(自分の仕事がどのような違いをもたらしているのか、なぜ重要なのかが分からない)

そこでクライアントにメールを送り、清掃について「良くない」「良い」「素晴らしい」「完璧」の4段階評価とコメントをお願いした。回答率は高くても60%であったが、評価が高くても低くても清掃を担当したチームに転送した。またクライアントが「完璧」と評価したケースをオフィスの「ワオーの壁」に張り出した。これで「無評価」と「無関係」はある程度改善した

世界的な設備エンジニアリング会社(従業員全世界12,000人以上)バリー・ベーミラーのCEOバリー・べーミラーからは次のことを学んだ。

「本当に効果的なフィードバックには、次の三点を意識したコミュニケーションが必要だ。すなわち、①自分(フィードバックを与える側)はどんな気持ちなのか、②そのような気持ちにした相手の具体的なふるまいとは何か、③その振る舞いが会社や人間関係にどんな影響を与えているか、である。略してFBI(気持ちFeeling、振る舞い Behavior 影響 Impact)。
特に大事なことは、①で相手の気持ちではなく、自分の気持ちに焦点を絞って話すことだ。「私は嬉しい」「私は失望した」と言えば、そのように感じたことを相手は否定する余地はほとんどない。②では、褒めるときも、非難する時も具体的に日時や内容を伝えなければならない。③も、出来る限り具体的に話すべきである。

スチューデント・メイドでは、このFBIについて半日間のワークショップを全メンバーが必ず受けなければならず、受講時間は時給が支払われている。ある学生は、授業中に教授から不当にいじめられていると感じて、教授にFBIを伝えたところ、からかわれなくなった。

またクライアントから回答が無かったチームや、パートナー(清掃は二人一組)の不手際のせいで自分の名前が「ワオーの壁」に載らないことに納得できない優秀なスタッフがいりしたことも、このFBIの広がりである程度は救済することが出来るようになった。

私は室内を点検した。携帯電話はマナーモードにした? OK. デスクの上は整頓されている? もちろん。 私の全身からスチューデント・メイドの情熱があふれている? いつもの通り。私は両ほほにえくぼが出来るくらい大きな笑顔をつくり、ドアを開けて、訪問者を温かく迎え入れた。

ジェイドを見た瞬間、合格だと確信した。陽気な笑顔、まっすぐな視線、自信に満ちた握手。ボタンダウンのシャツに、ブレザーまで羽織っていた。いくつかの質問にも完ぺきに答えた。「あなたのスピリット・アニマル(自分を象徴する動物)は?」 という変化球にも、少し考えてから、キリンを挙げた。「キリンはあらゆることを、かなり高いところから見ています。全体像を見ているのです」ワオ!この質問に意味のある答えをした人は初めてだった。「GPAは?」「3.7です。来学期は点数を上げたいと思っています」その必要はなかった。採用条件は3.5以上だ。「では最後に、車は持っていますか?」「持っていません。いま買うために貯金をしています」仕事上、車は絶対に必要であった。「ごめんなさい、ジェイド。残念だけど、あなたが車を手に入れるまで、採用することはできなにのよ」ジェイドは落胆していた。私も落胆していた。

その夜、寝付けなかった。うちでは働けないと言ったときの表情は、彼女がいかに私たちと働きたかったかを物語っていた。しかも面接に歩いてきたという。おそらく歩いて帰ったのだろう。努力を惜しまない姿勢そのものではないか。朝食の間もずっと、車の問題を解決する方法を考えた。他のスタッフの車に乗せてもらう、友人に車を借りる、彼女の自宅から近い現場に行かせるのもいい。私たちと働くことになれば、貯金して車を買えるではないか。すぐにジェイドに電話すると、もう別の仕事が決まっていた。すでにいくつかの内定をもらていたが、スチューデント・メイドが第一希望だったから、保留してもらっていたのだ。私は、たった一つのルールを理由に、これまで会った最高レベルの志願者を採用しなかったのだ。

その後、アンドリューが現れた。会ってすぐに彼はスチューデント・メイドを体現する人材だと、私の直感が訴えていた。ただし、彼は既に退学していて、学校に戻るつもりはなかったのだ。現役大学生でない人物を採用することは、車を持っていない事より重大な掟破りに思えた。クライアントは、自宅に入るのは大学生だけだと思っているはずである。しかし、今回は自分の直感に従った。私は彼に会社の「社会人学生」になればいいと話し、採用した。その後、私は確信した。直観は、採用条件より重要であるということを。

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