AI時代の現場力

日経新聞は、鹿島建設の新社長・桐生雅文氏が、42年の会社人生のうち35年を工事現場で過ごしてきたと報じていました。この経歴は、いま改めて「現場力」の意味を考えさせてくれます。

■ AI時代に見落とされがちなもの

いま多くの企業がAI(人工知能)を導入しています。しかしその多くは、本社の情報システム部門が主導し、現場は「与えられたツールを使う側」になっているのが実情です。AIは便利です。データ分析も速く、判断も正確です。けれども、「実際の仕事の流れをどう変えるか」「お客様にどんな新しい価値を生むか」を一番よく知っているのは、現場の人です。

■ 「真実の瞬間」という考え方

現場の重要性を説いた古典として、ヤン・カールソンの著書『真実の瞬間』があります。カールソンは、航空会社の経営改革の中でこう主張しました。企業の価値は、本社の会議室ではなく、顧客と接する「その瞬間」に決まる、と。
たとえば――空港カウンターでの一言、現場での迅速な判断、トラブル時の柔軟な対応。こうした小さな積み重ねが、会社の評価を左右します。AIがどれだけ進歩しても、「顧客と向き合う瞬間」はなくなりません。

■ 日本企業の強みはどこにあるか

AKKODi社社長の川崎健一郎氏は次のように指摘しています。「多くの企業でAI導入は本社主導で行われ、現場は与えられたツールを使う立場に置かれている。本来、業務をどう変え、価値を生むかという現場レベルでのカイゼンを積み重ねてきた日本企業の強みが、ICTやAIの領域では生かされていない」
日本企業はもともと「カイゼン」を得意としてきました。現場の小さな工夫を積み重ね、品質を高め、生産性を上げてきました。ところがAIの導入では、その「現場からの知恵」が十分に活かされていないようです。

■ 人間の成長とAI

さらに、ダロン・アセモグル教授(マサチューセッツ工科大学)はこう問いかけます。「人間は試行錯誤という現場での行動を通じて学習し、成長する。すべての意思決定をAIにゆだねれば、人間の成長に支障が出るのではないか」
失敗し、考え、やり直す。この繰り返しが人を育てます。もしAIがすべてを判断し、人はその指示に従うだけになったらどうなるでしょうか。効率は上がるかもしれません。しかし、人間の判断力や責任感は弱まるかもしれません。

■ AIか、現場か ―― ではない

大切なのは「AIか現場か」という二者択一ではありません。AIは強力な道具です。しかし、道具をどう使うかを決めるのは人間です。そして最もよく使い方を知っているのは、現場に立つ人です。

AI時代だからこそ、現場で考える力、現場で決断する力、現場で改善を積み重ねる力――つまり「現場力」が、いっそう重要になるのではないでしょうか。AIは頭脳の拡張かもしれません。しかし、企業を本当に強くするのは、最後はやはり現場なのだと私は考えます。皆さん、いかがですか?

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