「私が最も心配しているのは、トランプ自身より、この指導者を二度にわたり呼び込んだ米国の根深い問題だ」という米ハーバード大学ロバート・パットナム博士のことばに触発され、『怒りのぶどう』などで知られるノーベル文学賞作家スタインベックが1966年に発表した『アメリカとアメリカ人』を読みました。以下は、私が読書ノートに書き写したものです。ちょっと長いですが、よろしければ目を通してみてください。
第1章 多様性の統一
もっとも不思議なことは、この統一アメリカが400年ちょっとで出来上がったことである。ちょうどイギリスがローマ軍団に占領されていたのとほぼ同じ時期にすぎない。
この土地は贈り物ではなかった。石だらけの土地は我々に反撃し、途方もない森林や砂漠、そして治療不可能な病気がたちはだかった。またインディアンは自分のものと思った土地を守るために、力のかぎり戦った。はじめにやってきた人たちは土地を自分のものにするために働き、戦い、死んでいった。この4世紀に及ぶ労働と流血と孤独と恐怖が、あらゆる人種に根ざし、あらゆる色をし、民族的には一見無秩序な新しい民族に作り上げたのだ。
第2章 逆説と夢
最もよくあげられるアメリカ人の特性の一つは、じっとしておらず、満足せず、求め続ける国民だということである。だいたいにおいて不摂生な国民でる。いわゆる美徳においても節制がない。禁酒主義者は自分が飲まないだけでは満足せず、世界中の酒を禁ぜずにはいられない。我々は生活の保障とは、壺いっぱいの金貨と考え、そのためには行く手を邪魔する者は友達でも見知らぬ人間でも踏みにじる。そして壺を手に入れると、それでもなぜ不幸なのかをみてもらうために、精神分析医に、金貨の雨を降らせる。
第3章 人民の政府
アメリカ人は、政治権力にせよ、宗教権力にせよ、官僚権力にせよ、権力が続くことに、ほとんど例外なく不安と憎しみを持つ。明らかに権力が集中しているとか、そうした潜在能力をもった公職者がいると、アメリカ人はまずざわざわし、次に疑惑を持ち ― もしその公職者が地位に長くとどまりすぎると ― 最後にはみんなが徹底的に反対する。
我々は大統領に一人の人間ができる以上の仕事を与え、一人の人間が背負うことができる以上の責任を負わせ、一人の人間が耐えられる以上の圧力をかける。この最高の職務に対して国民はさまざまに報いているが、さらに我々は暗殺でもって報いる。多くの大統領が命を狙われ、四人の大統領が殺された。外国からの攻撃から大統領を守るのは比較的容易であろうが、アメリカ人から守るのは不可能に近い。
第4章 人種は平等につくられた
黒人が法律上の平等性を獲得するのは疑いない。しかし法的平等性は平等性の最小の部分でしかない。だれもが誰かを見下ろし、誰よりかは優れていたいと望むことは、人間の好ましくない性癖のひとつである。黒人の傷と白人に対する強い猜疑心に対比しうるものは、白人の黒人に対する恐怖と猜疑心しかなく、そのような感情の痕跡があるかぎり、真の平等性は達成されないであろう。
第5章 アメリカ属
我々は英国に反逆し、自分たちの屋台を建てたとき、爵位、名誉、相続制の身分、財産といった貴族制度のシンボルを慎重に排除した。しかし、どんな人間でも他人に尊敬されたいし、もしかしたら多少は羨ましがられたいので、アメリカ人は金と財産こそがその源泉であると考えるようになった。
アメリカの指導者の中にも、かなりのスクリューボール(変人)がいる。アメリカの変人には、チャーミングで独創的で芝居っけたっぷりなのもいれば、悪質で悪徳なものもおり、少数だがまったく危険なものもいる。彼らの目的は、おそらく、権力を求める単純な欲望だろう。ところが彼らが述べている目的は、例外なく愛国的である。彼らは必然的に国家を破壊せざるを得ない方法によって、国家を維持すると約束しているのである。サミュエル・ジョンソン博士は「愛国主義は悪者どもの最後の隠れ家だ」と言っている。
第6章 幸福の追求
子どもは親より良くならなければならないので、子どもを訓練し導き、あと押しし、尊敬し、しつけを施し、おだて、無理強いしなければならない。ところが、親たちの過去は現在よりも劣っていたので、親たちが提出したルールは自分たちの経験でなく、願望と希望に基づいていた。もし希望が果たされなければ、親たちは何か悪いことをしたと、自分を責め、罪悪感の混乱に陥る。親のこの自己罪悪感を子供たちは喜んで利用する。というのは子供たちは失敗しても自分の責任ではなくなるからだ。
第7章アメリカ人と国土
私は、初期の入植者がこの豊かな大陸にどんなに乱暴に、どんなに向う見ずにふるまったかを思って愕然とする。彼らは平原から水牛を追い払い、川を枯らし、草原に火をつけ、人の手に汚れていない高貴な森林に、恐れを知らぬ斧を入れた。こういう無責任な傾向は、現在でも大多数の人々に根強く残っている。我々の多くは、いまなお祖先と同じように行動し、目先の利益のために未来を台無しにしているのである。
戦争の圧力で、ついに原子爆弾をつくり、日本の二つの都市に落とした。私は恐れおののき、恥ずかしく思っている。私が知っているほとんどの人間は同じように感じている。声高く、荒々しくヒロシマとナガサキを正当化する人がいるが、彼らこそ最も恥なくてはならない。
第8章 アメリカ人と世界
アメリカの土地は、我々の祖先の故郷であるヨーロッパとアジアの開けた地方から船で何か月も航海しなければならぬところにあった。最近まで、平均的なアメリカ人が生涯に外国を見る機会は極めて少なかった。実際に通信することもほとんどなかったので、自国以外の言語を学ぶ必要もなかった。
移民たちは、世界のあらゆる言語を持ってきて、出来るだけそれを保存しようとしたが、彼らの子どもたちはアメリカ人となり、親たちがアメリカ人でなかったことを、いささか恥ずかしく思った。二世たちは親の言語をはじめ、過去の出来事を出来るだけ忘れようとした。
新しく誕生したばかりの国として、我々は世界中の政治を理解せず、したがって巻き込まれるのを恐れた。ワシントンも他国との同盟関係に巻き込まれないように警告した。
第9章 アメリカ人と未來
人間は所有欲、獲得欲、恐怖心、攻撃性が強く、肉食動物により近いように思われる。人間は貪欲で、生きているものでも死んだものでも食べることができるし、食べようとする。この能力はゴギブリと家鼠と共通している。猛烈なばかりに個人主義的でありながら、しかも集団でかたまり、密集都市の騒音と不快さの中に巣をつくる。しかもアメリカでは、この傾向はますます強くなっているようだ。
百万年間にわたり、我々はただ生き延びるという一つの目標を持っていた。生きていくために食糧を探し、植え、集め、殺し、また凍え死にしないように家を求めた。これが強い推進力だった。それにあらゆる敵に対する防衛を付けくわえれば、ここに人類の歴史ができあがる。ところが、いまや我々は食料と住み家と乗り物と、それにもっと恐ろしく危険なレジャーを持っている。私は、我々の道徳的、精神的解体は、我々が豊かさに対して、経験が足りないところからきているのではないかという気がしてならない。
新しいルールを必要とする新しい状況にたいし、アメリカ人はどのように行動し、反応するだろうか。過去の経験からいって、我々は多くの誤りをおかすだろう。我々はいつも誤りをおかしてきた。しかし私は、アメリカにおける我々の歴史、経験から、来るべき変化に対処する力があると信ずる。我々はかって、じっと手をこまねいてきたことはない。

